ジェリー・スピネッリ『スターガール』

閉鎖的でいじけてて、異分子はすぐに排除されちゃう田舎の高校を力強く生き抜いた一人の変わり者の女の子のお話。主人公スターガールがそれほど魅力的だとも思わないんだが、彼女の空気を読まないキャラが周りを熱狂させ、困惑させ、遂にはイラつかせるに至…

霞流一『サル知恵の輪』

ときどき、ふと読みたくなる霞本。こちらは最新刊。今回はどうもバカミス力*1が弱くっていまいち。見立て殺人の本当の意図にしても、馬鹿馬鹿しいというよりはむしろ「勉強になるなあ」なんて思わされてしまうし、騙りのトリックも無茶なだけという感じ。長…

海堂尊『チーム・バチスタの栄光』

第4回『このミステリーがすごい!』大賞受賞作。選考委員の興奮ぶりに違わぬ傑作でした。バチスタ手術の名チームの微妙にぎくしゃくした関係が、対照的な二人による二度の聞き込みによって次第に見えて来る構成がまず面白いし、術中死やクライマックスの犯人…

鯨統一郎『パラドックス学園』

推理小説が存在しない代わりに推理小説みたいな事件が日常的に起こる世界で、そこへ迷い込んだ推理小説マニアが“推理小説のお約束”だけを頼りに密室殺人をスパッと解決! と来れば結構面白そうなんだけど、もちろん鯨なのでこの趣向は全く徹底されていません…

森博嗣『レタス・フライ』

近頃は買わずに人に借りて読んでる森の本。最近の例に漏れず、恐ろしく力の抜けた短編集でした。睦子叔母様好きなので「刀之津診療所の怪」が部分的に面白かった、というくらい。読者を十分に焦らしつつシリーズのサイドストーリーを語るのが巧いというのは…

奥田英朗『空中ブランコ』

『イン・ザ・プール』は未読で、いきなりこっちから読んでみました。どうにも不安定になっちゃった人達が、幼児みたいに悪戯っぽい太っちょ精神科医伊良部に振り回されるうちに自分の問題に気付き、治ってゆくこの過程が実に爽やか。最初はどこか嫌な奴とし…

横山秀夫『震度0』

なんだこのオチは。県警重要人物の失踪事件にあたって、自己保身とより良い天下り先の確保“だけ”を考えて奔走する幹部達の俗物っぷりが読み所なんだが、最後の最後に性善説的なオチがついて全部台無し。そもそも、刻々と変化する幹部達の対立の構図に情報戦…

羽純未雪『碧き旋律の流れし夜に』

例の島田大先生推薦作。舞台となる館の構造も主人公一族の血縁関係もゴチャゴチャしててよくわからん。ミステリにだけ許される必殺技、屋敷見取り図と家系図を付けちゃえば良かったのに。島田先生推薦なんだから当然……ということで、トリックにも意外性なし…

荒山徹『柳生薔薇剣』

荒山徹の本は初めて。評判通り、面白かったですよ。まずヒロインの女剣士柳生矩香(十兵衛の姉!)の貫禄溢れる立ち居振る舞いがカッコいいし、最後の決闘の脇で妖術師同士が対決してるような怪しげな要素の混じり方も愉快だ。矩香様がカッコよく男どもを薙…

ニック・マクダネル『トゥエルヴ』

ある事件が発生するそのときまでの4日間を関係者の群像劇という形で描く、というもの。えー、これはですね、作者がアーヴィン・ウェルシュだったらさぞ面白かっただろうなあ、という感じ。自分しか見えてない頭の悪い登場人物を見てるこちらが悲しくなるよう…

米村圭伍『退屈姫君 恋に燃える』

シリーズ最新巻。やっと追いついた。前巻『海を渡る』より話が大げさになってなくて、これくらいがちょうどよく面白い。次第に微増しつつある下品ネタの気の抜け方もいい感じ。諏訪と小文五の“遅れて来た発情期”カップルが所構わずイチャつくのが好きだ。歌…

米村圭伍『退屈姫君 海を渡る』

風見藩三部作も完結ということで、こちらは第二作『退屈姫君伝』の続編という扱い。どうやらこの形でシリーズ化するようだけれど、だんだんユルくなってるし、数馬と一八の扱いは小さいしで、そろそろシリーズ追っかけを中断してもいいかな、と思い始めてい…

道尾秀介『向日葵の咲かない夏』

戯画的にグロテスクに歪んだ子ども世界を舞台にしたミステリってことで、『神様ゲーム』と並び称されてるのもなるほどという感じ。どちらかと言えばこちらのほうが好き。終盤の展開では新型サイコパスが旧型に引導を渡す図が見えて、おお、決まった!と思っ…

津原泰水『赤い竪琴』

直球のラブストーリーで驚き。筋立てだけなら昨今流行の純愛ものとそんなに違わないですよ。そういう類のものを念頭に置いて、パロディ的に書いたんだろうか。とまあそんなことはどうでもいいのだけど、とりあえずあまり面白くなかった。主人公二人の気持ち…

米村圭伍『面影小町伝』

『風流冷飯伝』『退屈姫君伝』に続く三部作の完結編。なのだけど、基本的に呑気な話だった前二作と比べて雰囲気はえらくシリアス。ですます調の軽い文体も無し。『退屈姫君伝』では愉快な仲間達の一員だったお仙が美女に成長して主役を張り、自らの数奇な運…

ベン・ライス『ポビーとディンガン』

妹のために奮闘するお兄ちゃんは好物ですが、このお話の主人公アシュモル君はいまいち。この役割に必要なツンデレ度が圧倒的に足りないんだもの。そしてそれはアシュモル君だけじゃなくて村人全員に言える。みんな意外にすんなりポビーとディンガンの存在を…

吉村萬壱『バースト・ゾーン―爆裂地区―』

なんて素敵なディストピア。得体の知れない怪物の群れが通りすぎた後に残ったのは、「意味を志向しすぎる人間も、しなさすぎる人間も、どっちにしろ醜い」というような。そんな笑える事実でしたよ。戯画的なのに生々しく、グロいのに臭みが無い描写の積み重…

米村圭伍『退屈姫君伝』

『風流冷飯伝』の続編。と言っても、舞台設定が同じなだけ(今回の主人公は風見藩に輿入れした姫君)で主要登場人物は総とっかえされておりまして、前作を読んだ人ならクスリとできる箇所がいくつかある、という程度。あ、ただ一人前作から続投のお庭番、倉…

米村圭伍『風流冷飯伝』

新刊読むのに疲れたので読んでみました。面白い! ですます調の柔らかい文体がすごくキャッチーで読みやすく、加えて主役格の二人、幇間の一八と冷飯食い*1の数馬のキャラがしっかり立っているのでどんどん引き込まれる。どかーんと盛り上がるクライマックス…

柾悟郎『さまよえる天使』

えー、この作家のことは僕は全然知らないんですが、面白かったです。<静物の人>と呼ばれる、普通の人間の300分の1の速さで生きる者達と関わった人々のお話×6。短編の一編一編の独立した面白さは実はそれほどでもないのだけど、通して読むと、奇妙で穏やか…

VOW nano!

VOWの携帯サイトに投稿されたネタを中心に収録。そのせいなのかどうか、以前に載ったネタのダブり掲載も多いです。「ソフトクムーリ」なんて基本じゃん。僕はと言えば毎度のことながらおかしな日本語ネタが気に入りましたよ。「ガラスがこされる」とか。あと…

久住四季『トリックスターズ』

なんとも雑で困った。SF(と言うか、この場合はファンタジーなんだが)ミステリは最低限特殊設定のルールを明確にしてくれないとどうにもならないですよー。キャラクターがペラッペラに薄いのは終盤の鬱展開を際立たせるためにわざとやってるんだろうなー、…

遠藤徹『弁頭屋』

『姉飼』は未読なので、この作家の本を読むのは初めて。日常の中にシュールでグロテスクなモノが当然のような顔をして紛れ込んでいる、という作風なのかなあ、そういうのは好きだ。と思って一冊読み通してみると、そういう収録作ばかりでもなかった。という…

ナンシー関『何はさておき』

文庫版刊行もこれで本当に最後ですよ。おかしいな寂しいな。 と言うわけで今回個人的に気に入ったネタを列挙。「インパク」と大原麗子の奇妙な結びつき/氷川きよしは久々の純粋「バカ」物件/ネイチャーメイドのCMの男が何か嫌……と思ってたらあれってクドカ…

高橋源一郎『性交と恋愛にまつわるいくつかの物語』

だからこういうのは感想が書きにくい。全収録作を通じて、普通なら何らかの共感を得て始めて成立するキャラクターが惨めなまんまで物語の中に放り出されているのが、無味無臭な虚しさを醸し出す、という感じ。「無味無臭な虚しさ」ってのも変ですが、そのへ…

東雅夫編『闇夜に怪を語れば 百物語ホラー傑作選』

サブタイトルが示している通りの、百物語にまつわるアンソロジー。収録作には非ホラー作品もあって、その代表格、森鴎外の「百物語」はこの並びの中に置かれると、パロディと言うか、ツッコミ的な役割を果たしているようで面白かった。何しろこれから百物語…

ハーブ・チャップマン『カインの檻』

事件の発生から犯人の逮捕を経てその犯人の処刑まで。ストーリーの展開にはほとんど重きを置かず、サイコパスの心理の異様さ、そしてその異様さに翻弄される人々の描写だけで全656ページを保たせるこの力量は結構すごいかも。特に、サイコパスがその心の奥に…

スタンリイ・エリン『最後の一壜』

前作『九時から五時までの男』の意地悪な印象とはわりと違って、普通にミステリしてる収録作も結構多め。とは言え、“善良”な精神が思わぬところでダークな一面を見せる、という展開が多く見られて、そこが面白かった。オチとしてはあくまで綺麗なのに、それ…

御影瑛路『僕らはどこにも開かない』

初期の浦賀和宏みたいな、勘違い男子ののさばりを許す世界観に、あー、ハイハイ、まあこのタイトルでこの表紙だもんな、覚悟はしてましたよ、読んでみた僕が悪いですよ、と投げやりに読み進めてみると……えー、そんな適当臭いオチ? 最後だけ取って付けたよう…

近藤史恵『モップの精は深夜に現れる』

シリーズ2作目。と言うか、このシリーズを続けるとは思わなかった。作者自身も語っているように、探偵役キリコは今や“羽衣を奪われた天使”であって、そんな彼女が前と同じように不思議な存在感でもって事件を解決してみせてもそれほど説得力がないんだもの。…