柾悟郎『さまよえる天使』

えー、この作家のことは僕は全然知らないんですが、面白かったです。<静物の人>と呼ばれる、普通の人間の300分の1の速さで生きる者達と関わった人々のお話×6。短編の一編一編の独立した面白さは実はそれほどでもないのだけど、通して読むと、奇妙で穏やかな“彼等”が隠れ住む作品内世界そのものが魅力的に見えてきていい気分。“彼等”を狂言回しとして使いながらも結局は一冊通して“彼等”のことを描いている、という趣向が素敵。
一応気に入った収録作を挙げておくと、ハードボイルドな駆け引きの果てに壮大な歴史的ビジョンが見えて来る「ダイアモンドと錆と」、味覚テロリストが食物アレルギー患者を利用するというSF的設定が抜群に面白い「ブルームーンライジング」あたりかな。