平山瑞穂『忘れないと誓ったぼくがいた』

みんな言ってるけど、これは平山瑞穂版『世界の中心で、愛をさけぶ』ですね。終盤の展開なんか映画版セカチューに酷似していて、わざと似せたんだろうけどその意図がわからない、というのはどうでもいいとしても面白くない。 主役二人が捻りのない平坦なキャ…

レジナルド・ヒル『ダルジール警視と四つの謎』

一見地味な雰囲気ながら、あちこちへ飛躍する自由な発想が楽しい本格ミステリ中篇集。シリーズ探偵であるダルジールとその部下パスコーが登場する中篇×4を収録する中、まずは二人の“出会い篇”である「最後の徴収兵」がすごい。 逆恨みに凝り固まったムショ上…

怪談之怪(京極夏彦、木原浩勝、中山市朗、東雅夫)『怪談の学校』

「ダ・ヴィンチ」誌上に連載された「投稿怪談小説の合評及び添削及びその他」な企画を一冊にまとめ、ついでに著者4人による座談会を冒頭にくっつけたもの。投稿作品40作もそれなりに粒揃いで面白いのだけど、やはりそれら投稿作のどこにケチをつけるか、どう…

竹宮ゆゆこ『わたしたちの田村くん』

主人公田村くんが一人目のヒロインと恋に落ちてそれから一時的に別れ、その間に二人目のヒロインと恋に落ちる、という二部構成のラブコメ。両ヒロインそれぞれの個性が上手く立ち切らず、結局似たようなトラウマ持ちという点に頼って物語を引っ張ってるあた…

トレヴェニアン『シブミ』

“渋み”を究極の形とする日本文化とアメリカニズム文化の対立、という構図を無理矢理でっち上げて物語の主軸に据えたこの趣向は、下手すると『ラスト サムライ』みたいなタチの悪い勘違いっぷりを晒す危険性すらあるものなんだが、ジョークを交えた冗談めいた…

山田風太郎『魔界転生』

まあ面白くないわけがないわけでありまして、面白かったですよ。史実上対決できたはずがない剣豪同士を対決させるのに転生という妖術を持ってくるところまではともかく、その転生の術がやたらとエログロな設定でまずニンマリ。それから、十兵衛対転生衆の対…

友桐夏『盤上の四重奏』

最高最高。『白い花の舞い散る時間』が気に入った人は絶対読むべき、な番外編。『白い花〜』の重要キャラを主人公に据えてあの物語の前日譚を裏から語る、というファン向けの趣向だけでなく、これ一作の読み心地まで『白い花〜』に似て甘く毒々しくてうっと…

小林泰三『脳髄工場』

久々の新刊でほくほく。とは言え、角ホラの泰三短編集は微妙にユルいのがお約束であって、今回もご多分に漏れず。それほどの出来じゃないと感じる収録作もあって、「影の国」とか「タルトはいかが?」あたりについてはそんな感じ。 でもやはり好きなのはすご…

奥田英朗『イン・ザ・プール』

遅いよ文庫落ち。おかげで『空中ブランコ』のほうを先に読んでしまってるからどうも物足りない。どうにも感情移入しにくいイヤな患者達が、伊良部との関わりを通して変わるうちにたまらなく愛しく思えて来る、この爽やかさが読みどころのシリーズなのだけど…

エラリー・クイーン『エジプト十字架の謎』

全然読んでない国名シリーズの一冊。いわゆる「首切りの理由」ネタの第一歩を切り開いた作品とおぼしいのでそのへんの歴史的意義を認めつつ、面白かったのはミステリと関係ない部分でした。ヌーディストの島から連れ出した少女を乗せたボートで高笑いしなが…

東野圭吾『白夜行』

実はまともに読んだの初めて。ラスト直前まで読んだ時点で図書館に本を返した経験はあるんだが、それっきり。機会ができたので読んでみました。やはり結構な意欲作なんだなあというのが第一印象。主役二人の心情が一切描かれず、入れ替わり立ち代り彼等の周…

今野緒雪『マリア様がみてる 未来の白地図』

裕巳の妹候補二人にはどちらも興味あるのでこの巻も興味津々。裕巳へのストーカー癖がすっかり治った可南子ちゃんは普通に可愛くなってしまって、かつての彼女の姿へ思いを馳せさせるナイスなキャラ変化。 対して瞳子ちゃんはどうやら裕巳の妹候補本決まり。…

今野緒雪『マリア様がみてる 薔薇のミルフィーユ』

各薔薇さまファミリーそれぞれの動向を追った短編集。黄薔薇編:由乃と令ちゃんのラブラブっぷりにはさっぱり興味がないが、由乃と菜々の絡みはそれなりにスリリングでよろしい。菜々を振り回しているつもりがいつの間にか振り回されている由乃が愉快。 白薔…

今野緒雪『マリア様がみてる 妹オーディション』

やはり裕巳は恐ろしいぜ……。蔦子さんと笙子への粋な計らいが微笑ましいというより恐ろしかった。それでも、笙子がコンプレックスを克服し、薔薇の館の外へ目を向ける展開は爽やかでいいな。 そしてさらに面白かったのは終盤の江利子さまと由乃の絡み。江利子…

今野緒雪『マリア様がみてる イン ライブラリー』

『バラエティギフト』に引き続く短編無理矢理繋ぎ形式の一作。本筋の祥子さま消失事件のバカミスまがいの真相も面白かったし、各短編の出来もなかなか。「チョコレートコート」で描かれる悲劇の予感は切なくも不穏で良い。特に、二股を掛けられた妹もまた事…

恩田陸『麦の海に沈む果実』

なるほど。これは確かに唯一無比。恩田陸の人気の所以がわかった気がしました。耽美で不穏な女学生の学園生活を散々描写した後にそれを全部台無しにするオチをつけて平気な顔でいるあたり、『白い花の舞い散る時間』みたいで好き。結末に至るまでの主人公の…

レイ・ブラッドベリ『太陽の黄金の林檎』

ブラッドベリもまともに読んだの初めて。この一つの短編集の中にはいろいろな傾向の作が収められていて、社会風刺的な「白黒対抗戦」とか、ヒッチコック・マガジンに載っていてもおかしくないブラックなミステリ「鉢の底の果実」、王道SFな「雷のような音」…

ジョン・ソール『踊る女』

引き続きソール本。わりあいゴシック調で、でもほんのちょっとだけ下品なところがソール節。これまた因縁と愛憎に導かれて狂ってゆく女が物語の中心にいるのだけど、この女のトラウマが全てはっきりとは説明されないのがいい感じ。このほうが怖いし、切ない…

ジョン・ソール『運命の町』

ジョン・ソールをどんどん読んでみる試み。始まり。「恐怖の金太郎飴作家」なる異名を持つほど同じパターンを使い回すソールのことですから、こちらもまた「引き合わせられた義理の家族がギクシャク」していった末に「主人公が身に覚えのない疑惑によって立…

アニー・プルー『ブロークバック・マウンテン』

例のアレの原作本。短編集から一篇のみ訳して文庫で出版ってすごい売り方。まあいいんだけど。まず訳文について言っておくと、訳出できなかったニュアンスをカッコ内に注釈入れて補足してる箇所が多すぎてわりと興醒め。ただ、訳者あとがきで述べられている…

ジョン・ソール『暗い森の少女』

精神障害を患う少女が無関係な罪を徐々にかぶせられてゆくところを読者はただ見守るしかない、というイヤな趣向がこの作者の『闇のなかの少女』*1とそっくり。とは言え、デビュー作であるこっちのほうが捻りの利いた設定で、『闇のなかの〜』は縮小再生産だ…

カール・ハイアセン『HOOT ホー』

タイトルが表しているのはフクロウの鳴き声。これだけでハイアセン読者にはどんな話なのかあらかたわかってしまったりするのかな。僕にはこれが初めてのハイアセンだったんだが、面白かった。裸足で疾走する謎の少年のイメージがいきなり冒頭から鮮烈だし、…

ディーン・R・クーンツ『闇の囁き』

もしかしたらクーンツ読むのは初めてかも。そして、最初にこれを読んだのはたぶん間違いだった。ジョン・ソールとかが書きそうな思春期サイコホラー風の筋立てなんだけど、かなり救いのあるオチが用意されてて、あんまり怖がらせてくれないのがつまんない。…

ローレン・ケリー『連れていって、どこかへ』

作者ローレン・ケリーは覆面作家。その正体は訳者あとがきをチラッと見るだけでわかります。わかったところで興味を引かれて読んでみました。お話はトラウマ持ち情緒不安定女のサスペンス風味な自分探し。主人公の不安定さに同調する妙なテンションの語り口…

今野敏『隠蔽捜査』

これは熱い。連続殺人事件から浮上した不祥事の対応に追われる警察庁の中、一人ゆるぎない姿勢で真に正しい選択を訴える主人公がもう眩しいったら。この主人公、キャリアの官僚で相当なエリート意識を持っていて、最初嫌な奴っぽいんだが、周りが頼りなくフ…

テッド・デッカー『影の爆殺魔』

謎の連続爆破事件と対峙するうち、自分のトラウマを向き合うことになる主人公。そして明らかになる犯人の意外な正体は……という話なのだけど、ちっとも意外じゃありません。この種のネタはもう出尽くしてるんで、使うならもっと頭を捻った使い方でお願いしま…

パトリシア・ハイスミス『11の物語』

タイトル通りのイヤ短編×11。旧版のほうが100円で手に入りました。よかった。というわけで、この短編集はとにかくカタツムリです。「かたつむり観察者」と「クレイヴァリング教授の新発見」の二編がカタツムリをグロテスクな得体の知れないものとして描いて…

エラリー・クイーン『十日間の不思議』

初めて読むライツヴィルもの。ライツヴィルシリーズとしては三作目なので、『災厄の町』や『フォックス家の殺人』のネタバレらしきものがあってビクビク。ささっと読み飛ばしました。それはさておき、なるほどこれは名作ですね。この種のネタの元祖なんだろ…

ジェフリー・ディーヴァー『クリスマス・プレゼント』

よく出来た面白いミステリ短編集でした。終わり。という感想で済ませたくなる本なんですねこれが。これは本当に嘘偽りなく粒よりの短編が揃っていて、各編にきちんと意外な展開が組み込まれ、痛快だったり意地悪だったりグラグラ崩壊感に満ちていたりと美味…

フアン・ボニージャ『パズルの迷宮』

元々えらい長かったペーパーバック版をこの映画*1の原作用に短く縮めたもの、を沢村凛が翻訳したもの。わりとバカミスを期待して読んだものの、主人公のねちねちと曲がりくねる思考をなぞった叙述が霞となってかぶさって、作品内で何が起こってるんだかよく…