レジナルド・ヒル『ダルジール警視と四つの謎』

一見地味な雰囲気ながら、あちこちへ飛躍する自由な発想が楽しい本格ミステリ中篇集。シリーズ探偵であるダルジールとその部下パスコーが登場する中篇×4を収録する中、まずは二人の“出会い篇”である「最後の徴収兵」がすごい。
逆恨みに凝り固まったムショ上がりの暴漢に軍隊プレイ仕立ての虐待に遭うダルジールとそれに巻き込まれるパスコー、ってどんなシチュエーションだよ。ミステリとしての肝はこの地獄を抜け出すためのダルジールのトンチにあって、これは大したことないんだが、事件を通して二人が互いの“見所”に気付いていく過程の描かれ方が丁寧で素晴らしい。シリーズファンにはたまらないんじゃないでしょうか。
もう一つ素晴らしいのが「小さな一歩」。“サザエさん現象”問題と後期クイーン問題を同時に扱ったミステリなんて史上類を見ないだろう。後期クイーン問題の扱い方についても、二人の探偵役の関係の変化の問題と融合されていて、シリーズ的にちゃんと意義がある。タイトルに関連した終盤の一シーンはすごく素敵だった。
他2篇についても、本格ミステリのお約束へツッコミ入れる姿勢は一貫していて、ヒルってこういう作家なのかと納得できた。完全にファンになったので、他作品も読む予定。