『ジャーロ』傑作短編アンソロジー(3)『夜明けのフロスト』

時節も時節ということで、クリスマスにまつわるミステリのアンソロジー。ダグ・アリン「あの子は誰なの?」、レジナルド・ヒル「お宝の猿」あたりはクリスマス・ストーリーらしいささやかな暖かみを感じられて良かった。特に後者はシリーズ探偵ダルジール警…

ハーラン・コーベン『ノー・セカンドチャンス』

普通のサスペンスでした。読んでるこちらが退屈しかかるちょうどその頃合に意外な展開が用意されているあたり、巧いとは思うのだけど……やはり普通だったという感想しか浮かばない。作者はもうちょっと主人公を虐めてもいいのではないかと思われました。あん…

小林めぐみ『食卓にビールを5』

もう5巻目ですよ。そして全くいつも通り。3巻の「廃墟篇」のようなことをやってる「魔王篇」のシリアス配分がいまいちであまり面白くないのが残念ではあるけれど、通して読むと楽しい楽しい。ベストは「スポ根篇」かな。こちらの予想の斜め上に向かってイン…

森山赳志『黙過の代償』

第33回メフィスト賞受賞作。思えば遠くへ……いや、なんでもない。えーと、今回はポリティカル・サスペンスというところでしょうか。熱い理想を心に抱く青年が皮肉な運命やすれ違いを熱さで乗り切る話ですが、主人公がそこまで熱い奴に見えない、というところ…

フィリップ・クローデル『リンさんの小さな子』

まず言っておくと、やおい的にはあまり美味ではありませんでした。爺さんと中年の心の触れ合い、ということでちょっと、いやかなり期待したんだけどなあ。そういう話ではなかったのですよ。不憫な爺さんに慈しみを抱く、という点で中年と読者は同じ立場だっ…

ジェレミー・ドロンフィールド『サルバドールの復活』

長々引っ張ったわりに大したことないオチで腰砕け、という感じが強くて、でもこの腰砕け感を楽しむべき作品なのかもしれないと思ったりもする。そこかしこで無造作に挿入される過去の挿話がまたいちいち印象に薄くて、つまらないわけじゃないんだけど楽しく…

今野緒雪『マリア様がみてる 特別でないただの一日』

またもイベントで慌しく駆けずり回る人達を交通整理してすっきり見せていて巧いなあ。結局どんな内容の劇だったのかすら描かないで終わってしまうのにちゃんと盛り上がっていて、やはり特に瞳子と可南子絡みのエピソードが強い。 個人的にはお久しぶりの蓉子…

今野緒雪『マリア様がみてる チャオ ソレッラ!』

修学旅行ということで、出て来るのは主に二年生だけ。そしたら見事につまらなくなっていた。この方々には始終もっと動揺していてもらわないと楽しくないです、やっぱり。蟹名静さんと志摩子さん(と、聖さま)の絡みのところだけちょっと盛り上がったけどそ…

今野緒雪『マリア様がみてる バラエティギフト』

四つの短編の繋ぎ方が巧い。由乃さんと江利子さまの絡みが好きな僕には特に面白かった。ほのぼのと暖かい各収録作の中では「ショコラとポートレイト」がいい。薔薇さまカード争奪戦の裏で起こっていた姉妹ドラマをさり気なく切り取っていて、素直にいい話。 …

チャック・パラニューク『ララバイ』

初めてパラニュークを読みました。面白かった。ギリギリのところでセカイ系になりそうでならないところがいい。主人公とヒロインを出会わせるためなんかではなく、ともかく間引きの歌はあって、オイスターとモナはいて、ロード・ムービーじゃなくなったかと…

今野緒雪『マリア様がみてる レディ、GO!』

それぞれにそれぞれらしくツンデレな瞳子と可南子が無自覚の裕巳にいいようにあしらわれてしまうのが可愛らしい。今まで全く魅力を感じなかった由乃さんも江利子さまとの絡みで見ると楽しいじゃないか。今回は間抜けな役回りの志摩子さんやいつも通りの祥子…

友桐夏『春待ちの姫君たち』

あれ? 意外と普通な……。前作『白い花の舞い散る時間』がほとんどバカミスだっただけにその方向を期待してしまったせいか、若干期待外れ。とは言え、前作と同じく、ダークな面も含めて徹頭徹尾「少女小説」であり続ける強さは感じられた。その分感情移入がし…

池上永一『シャングリ・ラ』

常軌を逸したキャラクターが狂った世界設定の中を縦横無尽に暴れ回っていて滅法面白い。特に女性陣(ニューハーフ含む)の逞しさと言ったら、これはもう見惚れるしかありません。それに比べて男どもの影の薄さと言ったら。笑えるくらいだ。暴れ回る彼女達は…

鳥飼否宇『激走 福岡国際マラソン 42.195キロの謎』

今年三冊目の否宇たんの新刊ですよ。嬉しいったらないな。今回は『ジェシカが駆け抜けた七年間について』や『42.195 すべては始めから不可能だった』などに続くマラソン・ミステリ。なんだ、流行ってるのか? ともかく、いかにもこの作家っぽい稚気溢れる豪…

保科昌彦『ゲスト』

作者は日本ホラー小説大賞長編賞を取った人で、今回初めて読みました。で、あんまり面白くなかった。狂気の伝染をテーマにしたJホラー風の筋立ては確かに結構怖いし、どんどん絶望が増して来る展開も緊張感があって悪くないんだが、肝心の“狂気の伝染”の元に…

C.S.ルイス『ライオンと魔女』

これまた映画化されることになったナルニア国ものがたりシリーズ。とりあえず来春映画版が公開予定の1巻目を読んでみました。おおー、面白い! 初めは確かによそ者だった四兄弟が、どんどんナルニア国に馴染んでいってしまう展開が何やらアブナくて良い。そ…

有栖川有栖『幻想運河』

罰ゲームで読まされた本ですが、そんなに悪くなかった。と言うか、これ結構面白いよ!>F君 有栖川ってこんなのも書けるんだ。えーと、時期的に危険な人の名前を敢えて出してみますとですね、これは飛鳥部勝則に近い。飛鳥部をもっとずっと平易にして青臭く…

ルーマー・ゴッデン『人形の家』

おかしな人形達の寄り集まりが家族だなんて可笑しいけれど、みんなで必死に願って手に入れた素敵な家は本当に素敵だったわけで、これが音を立てて崩れてゆく様は悲しくてたまらない。ちょっと頭の足りない、でもそこがチャーミングだったはずのことりさんの…

アストリッド・リンドグレーン『はるかな国の兄弟』

あってはならない冒険に立ち向かい、どこまでもとり憑かれながら、たき火とお話の時代の国を求めて自殺を繰り返す二人の兄弟! うーん、いかにもなファンタジー世界を見せておきながら、なんて根暗なんだ。臆病な弟君がクライマックスで最大の勇気を振り絞っ…

西條奈加『金春屋ゴメス』

第17回日本ファンタジーノベル大賞受賞作。うーん、『太陽の塔』→『ラス・マンチャス通信』と来てこれかあ。いや、決して面白くないわけじゃないし巧いのだけど、「近未来、江戸時代そのまんまの暮らしに浸る江戸国が日本から独立!」という奇天烈な設定から…

あせごのまん『余は如何にして服部ヒロシとなりしか』

短編集。これまた『チューイングボーン』と同じで、面白くなりそうな要素はあるのに、勿体無い……という感じ。全体的に、文体と途中までの展開はいい感じに捩くれているにオチのつけ方が安易で、ラストでちょっとガッカリさせられる。 例えば「浅水瀬」なんて…

大山尚利『チューイングボーン』

ダメ人間な主人公の陰鬱な心情描写にまみれた陰鬱な日々。その中に紛れ込んでくる奇妙なモノ。静かに狂ってゆく主人公。と来るとまるで福澤徹三みたいですが、うーん、いろいろと惜しい。基本的に冗長なんだよな。主人公がやたらと理屈をこねて自己分析する…

恒川光太郎『夜市』

第12回日本ホラー小説大賞受賞作。表題作と「風の古道」を収録していて、僕は断然表題作のほうが気に入った。化け物達の市場を舞台に、奇妙で切ない運命を背負ったあの人やこの人の来歴が語られて、その切なさが最高潮に達したあたりですーっとぼやけるよう…

福田栄一『玉響荘のユーウツ』

よく出来てはいますが、まあフツー。あまり引っ掛かるところはなかったかな。こういうのはむしろ映画で観たい。某古典ミステリのネタを引用したあたりが面白かった。あとはまあ、いくつかの事件に思わぬ結びつきが……という展開や悪者を懲らしめる作戦が全く…

桜庭一樹『ブルースカイ』

うーん、少女に興味はあるのだけれど、僕の好きなそれは「おじさん」の頭の中にしか存在しない少女なんだよな、という気持ちで読み進めてゆくと、あら、意外に良かった。あえて語り尽くさないことによって広大な世界観を背後にチラつかせるタイプの見せ方が…

石持浅海『扉は閉ざされたまま』

「密室が開かれない密室殺人」という本格ミステリマニア的に美味しすぎるネタを思いついたのがよりによってこの作家かー。楽しかったのは密室を開けない理由くらいかな。あとは思い込みの激しいサイコ女とただのアホ男がすごく遠回りにイチャイチャするのを…

ドナ・アンドリューズ『恋するA・I探偵』

主人公の人工知能チューリング・ホッパーが恋する乙女的暴走を見せてくれるのかと思ったら、暴走どころかえらくまだるっこしい。チューリングが自身を安楽椅子探偵になぞらえるくだりがあったりするんだが、そうではなくて実の所は「足で解決」タイプのミス…

清涼院流水『ぶらんでぃっしゅ?』

いやー、御大は変わらないね。結婚しても、父親になっても。というわけで、ご結婚とご子息誕生、それとついでに初のハードカバー刊行を祝しておきます。ご子息の名前はどうやら「ライト」というようです。御大にしては普通だね! よく我慢したね! 以上、最…

イザベル・アジェンデ『神と野獣の都』

この作家については何も知らないのですが、へー、有名なんだ。極限の地のサバイバル生活で乱れる人間関係、あの人やこの人の意外な姿、積もる死体、というあたりはB級クリーチャー映画を観るようなつもりで楽しめたけれど、少年少女がほとんど抵抗なくスピリ…

東野圭吾『容疑者Xの献身』

ええー? こりゃ不満だわ。こういう陰から守るタイプの男のナルシスティックな自己犠牲は「誰にも気付かれず」「全く報われない」からこそ光る類のものでしょうに。そもそも倒叙ミステリに仕立てたのが間違いだ。スリーピング・マーダーものなら良かった。あ…