東野圭吾『容疑者Xの献身』

ええー? こりゃ不満だわ。こういう陰から守るタイプの男のナルシスティックな自己犠牲は「誰にも気付かれず」「全く報われない」からこそ光る類のものでしょうに。そもそも倒叙ミステリに仕立てたのが間違いだ。スリーピング・マーダーものなら良かった。ああ、東野に『ごんぎつね』読ませたい……。
主人公の石神さんがラストに与えられるものはあんな嘘臭い現実などではなくて、もっと綺麗な夢であるべき。この男の成したことを純愛だなんだと持ち上げすぎなのもいけない。あれくらい好きな女のためなら当然でしょう。この人小説の登場人物なんだよ? トリックの使い方もなんだか身も蓋もなくてどうにも困った。東野の悪い面が一気に出ちゃったなあという感じ。