鯨統一郎『パラドックス学園』

推理小説が存在しない代わりに推理小説みたいな事件が日常的に起こる世界で、そこへ迷い込んだ推理小説マニアが“推理小説のお約束”だけを頼りに密室殺人をスパッと解決! と来れば結構面白そうなんだけど、もちろん鯨なのでこの趣向は全く徹底されていません。舞台の特殊さについての設定があやふやなままで“意外な真相”を語られても、「はあ、そうですか」としか思えないよ。
刑事がニコラス刑事だったり、意味無く脈絡無くパラドックス的なセリフが多数挿入されたりと、欲張っていろんな要素を入れすぎでもある。上に書いたような趣向に絞ってシンプルに仕上げれば鯨なりに面白くなったかもしれないのに。実際、凶器の正体にはちょっと笑わせてもらったので、このへんに集中してほしかったなあ。まあなんにせよ鯨ウォッチャーにはいろいろ美味しすぎる本なので、購入をお薦め。カバー折り返しの著者のことば*1だけでご飯3杯はいけるね。

*1:「本当におもしろい本ほど壁に叩きつけたくなります。」