エラリー・クイーン『エジプト十字架の謎』

全然読んでない国名シリーズの一冊。いわゆる「首切りの理由」ネタの第一歩を切り開いた作品とおぼしいのでそのへんの歴史的意義を認めつつ、面白かったのはミステリと関係ない部分でした。ヌーディストの島から連れ出した少女を乗せたボートで高笑いしながら現れる医者の登場シーンや、さあ事件解決だ、となった終盤に突然始まる呑気な三つ巴の追っ掛けっこが好き。メインの事件の残虐さが見えにくいほどにその周囲の人々や環境が妙に狂騒的に描かれていて、そういうところで楽しめてしまった、ということかな。
豪快なミスリーディングの仕掛け方(思わせぶりにしておいて一切フォローなし)やタイトルに関する意外な展開などなど、ミステリ的にも茶目っ気があって悪くない。

エミリー・ローズ

エクソシスト』を裁判劇でやるというアイデアが抜群! と最初は思ったものの、観終わってみるとそうでもないかな。少女が悪魔に憑かれてから命を落とすまでの経緯が、法廷での証言という形で少しずつ語られてゆく展開がすごくスリリングだったのだけど、終盤は弁護士と検事の陪審員の心情に訴える合戦となり、普通に感動のラストにもつれ込んでしまってがっかり。出世命!な女弁護士が、裁判を通して“正しい道”に立ち戻るという展開も取ってつけたみたいでいまいち。前半の緊張感が最後まで持続してれば……。
その前半の緊張感に一番貢献したのが、悪魔に憑かれる少女役のジェニファー・カーペンター。これは本当に本当に怖い。恐怖に歪められた顔がこんなに恐怖を誘う女優が他にいただろうか。彼女の過剰な演技と、弁護士役ローラ・リニーの抑えた演技の対比もいい感じ。それから、リニーの助手役のJR・ボーンというデコ広俳優を個人的に要チェック。好みだ。

イーオン・フラックス

うはは、かっこわりー。作り手にはビジュアル面に関するセンスが大幅に欠けてると見た。ヒロインの衣装も伽椰子さんみたいな妙な身のこなしも、アクションの舞台となる庭園(クライマックスは桜吹雪の中の銃撃戦!)のデザインもみんな変な感じ。王道SFっぽい筋立てがありがちなのは別にいいんだが、それがカッコいい美術やアクションで支えられてないことにはどうにもならない。池に沈められたヒロインの相棒が忍者っぽく竹筒で息をしてるを見たときはさすがにぶっ飛んで、こういうB級エッセンスがもっとあれば支持してもいいと思ったけれど。
主演のシャーリーズ・セロンのアクション・ヒロインっぷりは及第点。ケイト・ベッキンセールあたりと比べればかなりいいほう。その相手役マートン・ソーカスはまあ、普通にカッコいいんじゃないでしょうか。嫌いじゃないです。問題なのはソーカスの弟役ジョニー・リー・ミラーで、この人はこのままB級悪役路線に路線変更となるのか、目が離せないところ。

東野圭吾『白夜行』

実はまともに読んだの初めて。ラスト直前まで読んだ時点で図書館に本を返した経験はあるんだが、それっきり。機会ができたので読んでみました。やはり結構な意欲作なんだなあというのが第一印象。主役二人の心情が一切描かれず、入れ替わり立ち代り彼等の周りに現れる人々の視点から彼等の行動が描かれるだけなので、彼等の企みは読者にしかわからない、それもほのめかされるだけ、というのが一番面白いところ。そのほのめかし方がまたミステリ作家らしい稚気に溢れていていい感じ。この趣向から行くとラストの展開も納得ですな。
ただ、どうしても納得がいかないのは、全ての発端となった事件の扱い。この種の事態が登場人物に深すぎる(ように感じられる)影響をもたらす展開を男性作家に書かれると、それだけで引っ掛かってしまうのが個人的な嗜好なので何とも。『フリッカー式』なんかでも同じ引っ掛かりを覚えたものです。なんか差別的な気がしちゃうのですよ。逆に。

今野緒雪『マリア様がみてる 未来の白地図』

裕巳の妹候補二人にはどちらも興味あるのでこの巻も興味津々。裕巳へのストーカー癖がすっかり治った可南子ちゃんは普通に可愛くなってしまって、かつての彼女の姿へ思いを馳せさせるナイスなキャラ変化。
対して瞳子ちゃんはどうやら裕巳の妹候補本決まり。どうやら例によって家の事情で悶々としてるところを裕巳に突っ込まれて理不尽にキレてしまうあたりはさすが未来の裕巳の妹。その調子で裕巳を悩ませ続けてくれると嬉しい。この二人の気持ちが行き違う終盤はなかなかに美味で、次巻への引きも完璧。盛り上がってるなあ。

今野緒雪『マリア様がみてる 薔薇のミルフィーユ』

薔薇さまファミリーそれぞれの動向を追った短編集。黄薔薇編:由乃令ちゃんのラブラブっぷりにはさっぱり興味がないが、由乃と菜々の絡みはそれなりにスリリングでよろしい。菜々を振り回しているつもりがいつの間にか振り回されている由乃が愉快。
白薔薇編:志摩子さんの兄萌え。紅薔薇編:こちらでは本筋が進行。柏木さんを通して祥子さまにまた一歩近づけたかと思ったら逆に遠ざかってしまったようでシュンとなる裕巳の心情の描き方が巧い。祥子さまの難物っぷりがより一層明白になって、まだまだいろいろ期待できそう。