レイ・ブラッドベリ『太陽の黄金の林檎』

ブラッドベリもまともに読んだの初めて。この一つの短編集の中にはいろいろな傾向の作が収められていて、社会風刺的な「白黒対抗戦」とか、ヒッチコック・マガジンに載っていてもおかしくないブラックなミステリ「鉢の底の果実」、王道SFな「雷のような音」なんかも悪くないのだけど、特に印象に残ってしまったのは一連の乙女ちっくな短編。
例えば、「四月の魔女」で描かれる肉体の枠を超えた一夜の恋模様や、「荒野」の火星‐地球間の距離を飛び越えて届く愛の言葉には、恥ずかしさを覚えながらも感じ入ってしまう乙女な自分、が発見されるのでした。そう言えば「霧笛」に描かれた時を越え慕情も、乙女ちっくと言えないことはない。そして、一番気に入ったのは「山のあなたに」。届かない手紙を待ち続ける中年女性の心情の描き方がとんでもなく感傷的で、それでいて容易に感情移入を許さない、もう美しいとしか言いようがないお話で、僕は大好き。