柔らかい殻(背景色でのネタバレ含)

主人公の少年は父親から恐ろしい吸血鬼の話を聞き、その後近所の未亡人に会って彼女を吸血鬼だと思い込んでしまう。さらに彼はその“吸血鬼”が大好きな兄の血を吸っていると思い込み、危機感を強めていき……というお話。
これは素晴らしい。子供の無垢さ・無知さ・空想力を美しくも恐ろしいものとして描いたタイプの映画で、そういうのが大好きな僕にはたまらない。話は小林泰三の「吸血狩り」(『人獣細工』に収録)にそっくりで*1、でも短編小説だったあれよりもディテールがいろいろ描き込んである分さらにそら恐ろしい。もう、叫び出したくなるくらい。
例えば母親は主人公に「腹がパンクするまで水を飲ませる罰」を与え(ひいい)、父親は隠れゲイ疑惑を持たれた上に主人公の目の前で焼身自殺し(ひいいい)、優しい兄は元気を出させようと被爆した赤ん坊の写真を見せてくる(ひいいいい)。なんて家族なんだ!グロテスクな「天使」は言うに及ばず。そして何より一番ヒドいのはそんな出来事に遭うたびに目に暗い輝きを増していく主人公。いやー、恐いな。ラストがちょっと惜しいけど*2、ひたすら危険な方向へと突き進むストーリーと空虚な雰囲気漂う田舎の映像は美しくて最高。他人事ながら、何も知らずにこれを見ちゃったヴィゴ・モーテンセン*3のファンの身が心配です。

*1:たぶんこの映画を下敷きにしてたんでしょうな。知らなかった。

*2:最後は主人公にとってのみハッピーエンドであるべきでしょう。

*3:主人公の兄役でビリング・トップ。