砂と霧の家

わけあって独り暮しのジェニファー・コネリーは税金を滞納しすぎて父の遺産である家を差し押さえられてしまう。その家を買ったのが元は高い身分なのに移民ゆえに苦しい暮し向きのベン・キングスレー一家。ジェニファーは家を返してほしく、彼等にアタックを仕掛けるが……というお話。
元々可哀相な人達が何かの因果でぶつかり合ってより一層可哀相なことになってしまうってな悲劇ながら、キングスレー一家に比してジェニファー側の可哀相度が圧倒的に足りない。あと、こういう話は「誰も悪くないのにこんなんなっちゃいました」って印象を与えてなんぼだと思うのだけど、この映画の場合誰がどう見てもあの保安官が悪い(よな?)ってのがまた詰めが甘い感じ。さらに言うなら全体的に“死”の描き方に重々しさが足りないかなあ。人死にが続出する終盤で気持ちが醒めていくばかりってのはまずいかと。
ジェニファー・コネリーは堕ちていっても美人のままなのがちょっと。もっと汚れてみてもいいんじゃないだろうか。ベン・キングスレーは怪人的ルックスが憐れみを誘っていい感じ。

小林めぐみ『食卓にビールを』

女子高生で幼な妻でおまけに若手作家である主人公(名前なし)がフニャモラと日常を過ごすうちに決まってスーパーナチュラルなモノが飛び込んできて、でも特に動揺もせずなんとなくやり過ごす、というようなお話を集めた連作短編集。
これは今までに読んだことのない感じで、なかなか面白かった。独特のフニャモラ文体はダサくなる一歩手前で踏みとどまって心地いい脱力感を提供してくれるし、不思議ちゃん日常コメディみたいな話に唐突にSF的な要素が介入して来る、その唐突さがかなり面白い。最後の短編で一応一冊としてのオチをつけて、ついでにそれまでほとんど顔が見えなかった某人物に顔が現れるってな趣向も気に入った。
一冊通した満足感が最高な本なのだけど、敢えて集中のベストを挙げるなら、全くなんのきっかけもなしに話がSFに移行する展開が素晴らしい「わらしべ長者篇」、SFというより不条理短編に近い趣で主人公の平常心がとても楽しい「食卓にビールを 宇宙ハウス篇」あたりかな。