トレヴェニアン『シブミ』

“渋み”を究極の形とする日本文化とアメリカニズム文化の対立、という構図を無理矢理でっち上げて物語の主軸に据えたこの趣向は、下手すると『ラスト サムライ』みたいなタチの悪い勘違いっぷりを晒す危険性すらあるものなんだが、ジョークを交えた冗談めいた語り口と感傷に流れない描き方でそのへんは楽々クリア。現在に至るまでの主人公の半生を描いた部分、特に戦後のパートが面白くて、語学の天才だわ妙な特殊能力は目覚めるわ怪しい武術は身につけるわでもうわけわからん主人公にきちんと父子ドラマを演じさせ、きっちり感情移入を誘う展開が巧い。
突然ケイヴィングものになったり突然エスピオナージュになったりする滅茶苦茶な構成は面白いけど読みにくく、でもやっぱり面白い。ただ、バトルシーンがかなり少ないのにはちょっと不満が。それと、終盤「奪われた分奪い返す」主人公の行動が、どうも弱い者虐めっぽく見えてしまうのが痛い。彼をもっと凹ませたほうが面白かったよ。