奥田英朗『イン・ザ・プール』

遅いよ文庫落ち。おかげで『空中ブランコ』のほうを先に読んでしまってるからどうも物足りない。どうにも感情移入しにくいイヤな患者達が、伊良部との関わりを通して変わるうちにたまらなく愛しく思えて来る、この爽やかさが読みどころのシリーズなのだけど、この一作目では患者のキャラが最終的に読者の共感を掴むところまで行けてない収録作も多い感じ。
そんな中での集中ベストは「フレンズ」。ケータイ依存症というこの上なくベタなネタを扱いながらもワイドショー的安易さとは全く無縁で、主人公の抱える孤独感とそこへ向けられた優しい視線がどちらも切実に伝わって来る結末が綺麗。マユミのキャラの扱い方も『空中ブランコ』の「女流作家」と同じで面白かった。