福澤徹三『死小説』

福澤徹三の最新短編集。中年会社員が過ごす鬱々とした日々の中にノイズのように紛れ込む怪異が主人公の心情と足並みを揃えるようにラストで破裂するお話×5を収録。この人の作では中年男性の鬱な日常と古典的な怪談ネタと都市伝説っぽいエッセンスがうまくミックスされたものが好きなのだけど、この本に関しては“中年男性の鬱な日常”ばかりが前に出すぎていてちょっとお腹苦しい。鬱日常描写が真に迫っていればいるほどオチが唐突に感じられてしまうのも問題点か。
集中の個人的ベストは「黒い子供」。老人介護絡みの仕事に就いている主人公が遭遇する怪異を描いた話なのだけど、ボケ老人の言動を嫌な感じにせず不気味に描いているのはさすが。でもこれも最後の2ページ無いほうがいいなあ。逆にオチが効果的なのは『壊れるもの』(→感想)のプロトタイプと思しき「降神」。『壊れるもの』より巧くまとまっている上に怖い。「夜伽」まで行くとオチが決まりすぎなんだけど。