ジム・トンプスン『ポップ1280』

人口1280人の田舎町の保安官ニック・コーリーは今日も口うるさい妻や頭の足りない義弟、独占欲の強い愛人や人を見下した仕事仲間などなど、手のかかる連中に頭を悩ませつつ、狡猾な手口で人を陥れ、殺し、そして邪魔者を厄介払いしてゆく……というお話。
これは確かにすごいですね。主人公ニックはどうしようもない最低の町と最低の連中に翻弄され、場当たり的な行動をフラフラ積み重ねてるだけのようで、でも水面下ではそんな奴等にに狡猾に落とし穴を仕掛けている。このフラフラと狡猾のバランスがなんとも不安定で、そんな不安定さを自分でも持て余しているニックの心理描写はある種の迫力たっぷり。筋立てがよく似ているアーヴィン・ウェルシュの『フィルス』(→感想)なんかだとラストに至って主人公に同情することができたけど、この作品のオチはそんな同情すら入り込む隙のないまさに空虚なものであったりして、なんともはや。訳文も読みやすいので広くお薦めしたいですね、これは。
ところで、このタイトルは「ポップせんにゅひゃくはちじゅう」って読めばいいんだろうか。それだけが気になった。