ジャック・ケッチャム『隣の家の少女』

主人公が回想する12の夏。隣の家に引っ越して来た美少女メグに彼は心奪われ、仲良くなりたいと願った。だが、隣家では次第に彼女に対する虐待がエスカレートし、彼もそれを止めることはできず……というお話。
これは傑作。こんなにページの空白が痛い小説は初めて読んだ。虐待やいじめをネタにした凡百の小説とこの作品が違うのは、虐待の責任を完全に個人に還元してしまわないところ。アメリカ郊外の自然に囲まれた一軒の家、その地下室という空間にある種の磁場が発生して、それに引き寄せられた人々がどんどん残酷化していくのをただ見守るしかない、それどころか、自分もこの場にいたら虐待に加担していただろうと想像せざるをえない、とんでもない恐ろしさと不快感。やはり傑作。
不快なわりにリーダビリティ高くてすぐ読めてしまうのがまたこの作者の意地が悪いところで、細かいパート分けも実に効果的(悲惨な想像が広がる広がる)。最後に気になったのは終盤に出て来る新聞記事で、その殺人事件の被害者の一人の名がパトリシア・ハイスミス……。これは偶然か、それとも楽屋ネタか。でもケッチャムがハイスミスをネタにするってのはすごくわかりやすい気が。