乙一『失踪HOLIDAY』

二編収録の短編集。うーん面白くない。まずは「しあわせは子猫のかたち」(孤独で根暗な青年が暮らす家に前の住人の幽霊らしき気配が現われ……というお話)。ミステリ要素の潜ませ方が安易なのだけど、心情的に読者がウッと思うような“騙し”の記述があって、それには感心した。主人公の悩みとそこからの脱出はどちらもわかりやすすぎるくらいの描き方がされていて、でも甘ったるくはない、というところがこの作者の巧さか。僕としてはスルスル読めすぎて不満だけど。
次が表題作(金持ちの家の継子になった女の子はある日家出のついでに狂言誘拐を思いついて……というお話)。これは一人称語り内のギャグに滑りが多くて結構辛い。ラストの展開にも無理があるように感じられて、これなら“いい話”に落とすよりブラックなお話にしたほうが面白かった気が。というのは、それこそ安易な意見かもしれないけれど。