A・B・コックス『プリーストリー氏の問題』

犯罪心理学に並々ならぬ関心を抱く二人の男。普通の人間が殺人を犯したときどのような心理を抱くものか?と考える彼等は、その思考を実験に移すことにする。一方、知らぬ間にその実験ターゲットにされている人畜無害な男プリーストリー氏は、友人に蕪男扱いをされて憤慨するが……というお話。
A・B・コックスって誰かと思ったらアントニイ・バークリーの変名ですか。なるほど。確かにバークリーらしい皮肉っぽいジョークが満載で、イギリスには「嫌味で小賢しいエセ貴族」「ウドの大木」「可哀想なくらいの善人」の三種類しか人間がいないのかと思わせるほどの偏った人物描写が実に愉快。気が滅入るようなキャラしかいないわりには、一応爽やかなハッピーエンドを演出してもくれるし。それに何と言っても非日常的な体験を通して頼もしく成長する主人公プリーストリー氏が魅力的。逃避行を共にする女性とのスクリューボール・コメディ風のやり取りにも気が利いていて、悪くない。
バークリーはもうちょっと読みたいのですけれど、いかんせんハードカバーばっかりなのが辛いなあ。