柄刀一『殺人現場はその手の中に』

「天才・龍之介がゆく!」シリーズ第6弾。今回も連作短編集の形をとってます。
なんだかもうマンネリ化どころの話ではなく、どんどんシリーズの特徴が“濃く”表れて来ているという印象。犯人が誰であるかとか、動機は何であるかとか、そういう本格ミステリとして重要な要素も全て、探偵役である龍之介の“ピュア”な心を守るために奉仕している(ように感じられる)ところがすごい。雑学トンチ系トリックもどんどん身も蓋もなくなって来ていて、今作の「なんと、本のページ自体に手がかりが」という趣向なんてほとんど霧舎学園の域に達していると言ってもいい。すごいなー。
とまあこのように結構アホなシリーズであるにも関わらず、読んでてムカつかないのは作者である柄刀一の人徳でしょう、とでもしておきますか。登場人物が揃ってオヤジ臭いのもポイントかも。集中のベストは前述の趣向を盛り込んだ「ページの中の殺人現場」と、ま、まさかあの方法で字が浮かび上がったって?な「瞳の中の死の予告」の二つ。