グラディス・ミッチェル『月が昇るとき』

幼い兄弟がサーカスの前夜に見かけたナイフを持った怪しい人影。その翌日から小さな村は若い女性ばかりを狙った連続切り裂き魔の被害に見舞われる。名探偵として著名な心理学者ミセス・ブラッドリーの協力を得ながら、兄弟は事件解決に奔走するが……というお話。
幼い子供が陰惨な事件に遭遇!って筋書きから少年の心がどんどん捩くれていくような話を想像してたら全然そんなんじゃなく、事件と微妙な距離を保ちながら少年の日常が淡々と進む小説でした。主役の兄弟の“可愛さ”と“可愛くなさ”のバランスが絶妙で妙な説得力があるのだけど、だからと言って魅力的というわけではなく、そんなキャラクターでこの起伏のない話というのは若干退屈な面も。でも、ラストの犯人と兄弟との対決場面だけは異様に盛り上がっていてちょっと興奮した。あの犯人が早足で迫って来るのを思い浮かべただけでもう、恐怖と笑いが。
この作者については『ソルトマーシュの殺人』という著作のほうが評判がいいみたいなので、機会があったら読んでみたいかも。それにしても晶文社の本って高いよ。