石黒達昌『人喰い病』

医学・生物学ネタが若干大目のSF短編集。この人芥川賞候補になってたのか。絶妙なタイミングで読んでしまった……。
医者である作者の本業の知識が盛り込まれた、ある種素朴な感じすらするほどの冷たい文章が心地良くて、これは面白いです。集中の個人的ベストは「水蛇」。希少種を漁ろうと鍾乳洞に籠もった男が戻れなくなってそこで奇妙な水蛇を食料にして過ごす話なのだけど、男がどんどんトリップ状態になって来るのと水蛇を飲みたくなって来るのとのシンクロがちょっとぞっとするくらい説得力があっていい。
他、淡々とした文章の中にも、迫力のあるグロ系描写が顔を覗かせたり(表題作)、ラストに唐突にロマンチックな文章が置かれていたり(「雪女」)するあたりがなんとも居心地悪くて居心地いいと申しますか。好きです。