田中啓文『笑酔亭梅寿謎解噺』

更生のため担任教師に無理矢理著名な噺家笑酔亭梅寿の内弟子にされてしまった不良少年竜二は、少しずつ落語に親しみを抱くようになり、ついでに次々と起こる謎の事件の解決に関わっていく……というお話。
おそらくこの作家の著作の中で一、二を争うくらいまともな連作ミステリ短編集。駄洒落も少ーしだけだし、時たま不必要にグロ描写に力が入ってしまう以外はすこぶるまとも。で、田中啓文がまともな連作ミステリを書くとどうなるかと言うと……なんと、鯨統一郎になるのだった!いや本当に、僕、読みながら何度も「あれー間違って鯨の本買っちゃったのかなあ」って思いましたよ。さすがに鯨に比べればウェルメイドな話のまとめ方なんかの点でだいぶ巧いのだけど、それにしたって僕は鯨が読みたくてこの本を買ったわけじゃないのです。もっと田中啓文らしく弾けてほしかった。
と言うわけで、鯨統一郎ファンの皆さんにお薦め。