川島誠『NR ノーリターン』

両親と記憶を失って目覚めた俺(18歳・男)はとりあえずスペインから来た年下の叔母に世話になるが、もう一度陸上を始めようと誘うコーチやらマフィアやら謎の中国人風俗店店長やらが次々に俺に絡んで来て、しまいには新興宗教絡みの事件に巻き込まれ……というお話。
川島誠久々の長編ということで、読んでみました。「セカンド・ショット」や「サドゥン・デス」*1で見せたような“何も起こらない(もしくは語り手が平常心すぎて何も起こってないように見える)”日常描写が続く中盤が素敵に面白くて、けったいなアルバイトがあっという間に“日常”に取り込まれるくだりなんて最高。ただ、物語の収束する先には不満があって、えー何だよそんな健全な話になっちゃうのかよ、という感想を持ってしまった。宗教絡みの大事件すらあっさりと処理されるのは好ましいのだけど。
軽薄で平熱な感じの語りは相変わらず快調。サブキャラの造形も良くて、胡散臭すぎる店長と一人で暴走するドクターは特に気に入った。

*1:二編とも短編集『セカンド・ショット』に収録。