沢村凛『カタブツ』(背景色でのネタバレ含)

“地味でまじめ”な人達を主人公にしたミステリ色のある短編集という触れ込みの一冊。「バクのみた夢」「袋のカンガルー」なんかで見られる象徴的イメージの使い方はどうもバシッと決まっていない気がするのだけど、目立たないけれど愛すべき人物の描き方は巧いし、先の読めない展開を駆使した構成はとてもよく出来ている。全体的に、アンハッピーエンドよりハッピーエンドの作のほうが面白いかな。以下は印象に残ったものの感想。
「とっさの場合」とっさの場合、息子を助けられないのではないかという強迫観念に囚われた主婦を主人公に、叙述トリックっぽいネタまで仕込んだ上で人間の心の不気味さを描いた短編。“とっさの場合”じゃなくするには、日々息子が危険な目に遭ったときのイメトレをすればいい!ってな歪んだ展開はとても面白かったので、どうせならもっとサイコホラーなオチにしてほしかった。これだとちょっと中途半端。
「無言電話の向こう側」自分の思ってることをズバッというタイプの友人には秘密の過去があった。彼の元に毎晩かかって来る無言電話はそれに関係したものか?ってお話。こういう心温まる話をラストに持ってくるのはニクい。友人が弁解しない理由をしっかり納得させ、シンミリさせておいてから大団円にもつれ込む展開が綺麗。