近藤史恵『スタバトマーテル』

プロの資質を備えながら極端なあがり症で本番では歌えず、大学の副手として働いてるりり子は、有名イラストレーターの息子で画家の大地と恋に落ちる。だが、それ以来りり子の身に次々と危険が降りかかり……というお話。
この作者の作としてはどうってことないレベル。最後の1ページのおかげでかろうじていくらか深みが出ているけど、恋愛小説としてもミステリーとしてもかなり凡庸な展開しかしないので悪い意味で流し読みできてしまう。面白かったのは大地の母親に絵を見せられる場面の“本当の意味”くらいかな。主人公のりり子や彼女の元恋人の西なんかの人物造形には確かにある種のリアリティを感じなくもないが、いかんせん印象に残りにくい。
あれですよ。要は、恋愛と母性愛との衝突みたいな話にはもう飽きた、ってことだ。余談ですが、近藤史恵なら歌舞伎シリーズを一作以上読んでから『ガーデン』を読むコースをお薦めします。御手洗シリーズをどれか読んでから『異邦の騎士』を読むのと似た種類の感慨が得られますよ。