鯨統一郎『喜劇ひく悲奇劇』

泡坂妻夫『喜劇悲奇劇』(読んだけど忘れた)へのオマージュたっぷりの回文ミステリー。回文サークルの合宿中に連続殺人が起こり……という話の筋はどうでも良くて、1ページに一つ以上無理矢理盛り込まれた回文を見てヘェとかホォとか言いましょうという小説。
これもなあ、書く人が書けば田中啓文の駄洒落小説みたいな「回文を盛り込むことを優先させるあまり展開が不自然になる面白さ」が生まれるところなんだが、そこはまあ鯨ですから。人死にが出ているというのに回文作ってる不謹慎ムードにしても、「回文見立て殺人」に「回文アリバイ」「回文証拠」などなど乱れ撃ちな馬鹿馬鹿しさにしても、いまいち弾け切らず。しかしこの“弾け切らなさ”をこそ楽しまなきゃいけないのが鯨作品だとも言えるだろう。
ちなみに出て来た回文の中で一番印象に残ったのは、「ビキニの下は私のニキビ」ってやつ。