福澤徹三『再生ボタン』

怪談小説集。この作家も常々読んでみたいと思っていた一人なのだけど、ものの見事にツボに嵌りましたよ。こういうの好き好き。全体的に、オーソドックスな怪談の形式に(時には無理すら感じさせながら)踏みとどまりつつ、いろんなことを試してみているという感じ。何より素晴らしいのは、全編に共通する「恐怖が自分を、世界をどんどん満たしていくうちに、いつの間にか自分は誰か、ここはどこか、今はいつかわからなくなる」感覚。思わず読んでる自分も居場所を確認したくなります。以下は特に気に入ったものの感想。
「厠牡丹」シュールかつ情緒のある謎のセリフから始まって怖さに少しずつ浸っていくうちにいつの間にか思ったよりずっと侵食されていて“いつか”と“いつか”の隙間に嵌ったまま抜けられなくなっているというような読み心地のショートショート。文句の付けよう無し。
「怪の再生」百物語の末に……系のお話。ジリジリと引っ張り、何気ない文章で呆気なくどこかへ連れてかれる。自分は何者なのかなんてことすら決まらなくさせるモノが確かに存在していることの怖さ。複雑な構成だから難しいかもしれないけど、これ映画化したら面白そうだなあ。
「仏壇」ルームメイトが仏壇を部屋に引き取ってから怪奇現象が起こり始める、という都市伝説風味のお話。わりと普通な展開かと思いきや、どうしてまたこんな不安で堪らなくなりすぎて返って空っぽになるような、そんなラストへ繋がるんだ!解説でも触れられている“ぐにゃぐにゃ曲がった線香”他、ディテールも怖すぎ。