町田康『夫婦茶碗』

適当な仕事についてはすぐに辞めることを繰り返すダメ夫が家庭に潤いをもたらすいい仕事を思いつく。そうだ、メルヘン執筆だ!な「夫婦茶碗」、適当すぎる演劇やらバンド活動から祖母の経営する旅館に逃げて来て毎日猫の観察で時間を潰してるダメ男が自堕落生活から逃れようと思い立つ。そうだ、上京だ!な「人間の屑」の二中編を収録。
町田康って今まで読みそびれていたけど、こんなんなんですね。確かに文体には一本筋が通った強固さが見えるし、リズムの崩し方が巧いなあ、とは感じるもののカッコいいと思うには至らず。スマートという言葉が近いかな。
そしてその文体と微妙なミスマッチを醸し出している一人称語りの内容にもまた微妙にハマれず。主人公の逃げ逃げ一貫性無し放っぽり思考を混沌とした状態のまま写し取る語り口はなかなかにホラーで、特に「人間の屑」はちょっと本気で怖かったのだけど、なんだろう。こういう話なら主人公が自分のダメさにもっと無自覚であったほうが面白かった気がする、のかな。ジョン・アップダイクの『走れウサギ』(→感想)とか小林泰三の『奇憶』みたいなのと比較してしまうと、“ダメ”感の切実さがまだ足りてないのかもと思う。