氷川透『各務原氏の逆説』(背景色でのネタバレ含)

ぼくたち軽音楽部の部員から変死者が出た!その後も不振な事件が続き、ぼくは用務員の各務原氏の協力の下事件の真相を探り出すが……というお話。主人公が学生なだけあってこの作者の「大人」不信みたいな作風が前面に出ててウザー、と思ったものの、最後まで読むと意外に悪くないですね。今作ではいつもの多視点入れ替わり制を取っていなく、その分ちょこっと西澤保彦っぽく「学園ほのぼのドラマと見せかけて内実はドロドロ」な感じをやりたかったのかなー?という印象。その面では西澤作品より切実さを感じて結構好きだ。探偵役の不謹慎さや「いい気なもんだ」度に対するセンチメンタルなエクスキューズが用意してあるあたりがポイントでしょうな。
何で全体主義なんて言葉を使っちゃうんだよう、とか、犯人の割り出し方にもうちょっと意外性があっても良かったのでは、とか、うーんやはりこういう同性愛ネタの扱い方はちょっと……とか、不満はいろいろあるものの、主人公が氷川透(シリーズ探偵のほう)ほど回りくどい思考をしないので読みやすいし、全体的に、いつものねちっこさを抑えつつも自分の作風は保っているという感じがして、わりと上手に対象年齢を落とせているんじゃないだろうか。あまり器用な人という印象はなかった作者だけど、これには少し感心。
でも、章ごとにミスチルの歌詞を引用するのだけは本当にやめたほうが良かったと思いました。