麻耶雄嵩『名探偵 木更津悠也』

久々の麻耶様新刊は木更津&香月シリーズ短編集。このシリーズ特有の「ワトソン役に知らずに操作される名探偵」っていう趣向が前面に出てて面白い。えーと、要は『名探偵コナン』みたいなものですね。ただ、コナン君のポジションにいる香月が甚だしく屈折した人物なので何だかおかしなことになっていて、そのへんが読み所。バカを装って木更津(名探偵)のプライドを保ちつつ彼よりも先に真相に到達した上で彼がちゃんと真相に辿り着くようさり気なくヒントを出す、なーんてことをしてる香月の涙ぐましくも腹黒い努力に拍手!繰り返し語られる彼の“名探偵”への屈折した想いの白々しさにも爆笑だー。思えばこの本、タイトルからして皮肉が過ぎるよ!いやあ、堪能させてもらいました。本格ミステリの王道への批判的態度ってまだまだ有効なんだなあ。
普通に本格ミステリとして読むと、名探偵の推理開陳場面に向けての盛り上げ方が巧いところが評価できると思う。その盛り上がったテンションに見合う分だけ意外で魅力的な真相が用意できてるかと言うと微妙なんだけど。集中の個人的ベストは「禁区」。犯人あぶり出し場面に漂う奇妙な緊張感がたまらない。「交換殺人」における、被害者の周辺の複雑な人間関係を提示しておいて……という、抜け抜けとしたオチの付け方も好き。ある意味驚愕の真相と言えよう。あと、「交換殺人」ラストの香月の心理描写は全編屈指の笑い所だと思う。