麻耶雄嵩『夏と冬の奏鳴曲』

読み返したので感想を。編集者の準社員如月烏有はアシスタントの女子高生舞奈桐璃と一緒に孤島で催される会合を取材に出かける。しかし、その島では謎の密室殺人を皮切りに次々と殺人事件が発生し……と、王道な本格ミステリ展開が一応あるものの話の中心は全然そこにない酷いミステリ。
固有名詞連発とか引用てんこ盛りな所、はたまたちょっとどうなんだと思うほど直球なトラウマを抱えたモラトリアムな主人公のキャラ設定等から醸し出される同人誌臭さ(読者無視して好き勝手やってる感じ)が支配的で、でも終盤以降急にそれまで見えていた“作者”の姿がどっかにかき消えて代わりに主人公のキャラクターが強固なものとして立ち現れてくるのが面白い。リアリティを持ったキャラになる、ってこととはまた違って。終盤主人公がすることになるあの“選択”は今読んでもたいそう素敵だと思うのであります。やはり麻耶様と呼ばねばなるまい。
ただ、解決しない謎をたくさん残して思わせぶりに終わる感じはあんまし好きじゃないのだった。どうせ残すならもっと謎っぽい謎にしましょうよ。「有力な解釈」が生まれちゃうようでは嫌なんだよー。