畠中恵『しゃばけ』

裏表紙あらすじの「大江戸人情推理帖」って言葉は嘘じゃなかった。人情云々はともかく、何気ない記述やファンタジー的な設定が伏線として機能していたりして、ミステリ要素がちゃんとある!事件についての疑問点が箇条書きで述べられたりするベタな本格ミステリみたいな部分があってびっくりした。まあ勿論、ミステリ要素だけで楽しめるレベルではないし、そうである必要もない小説なのだけど。
話としては、主人公の病弱な若だんなが子供の頃から妖怪達に守られて育っているという設定が生きていて面白い。いろんな妖怪が出てくるだけで楽しいなあ。でもせっかくの妖怪うじゃうじゃ小説なんだからもっとうじゃうじゃ感があっても良かったかも。あまり個々の妖怪の個性が光っていた気がしないし、彼等の心理やなんかの描き方がちょっとわかりにくかった。特に佐助と仁吉の妖怪形態(なんてものがあるかどうかわからんが)を見せてくれないのは不満だなあ。いけずー。若だんなの成長とか人間関係の様子については、当時の風俗的要素なんかも交えながら巧みに描かれていて満足。軽やかでありながら微妙に湿り気のある魅力的な文体とも相まって、リーダビリティは高いです。すらすら読める。
あと、こんなにやおいにしやすそうな小説だとは思わなかった……。僕はしやすそうだと逆に気が引けてしまう種類のヤオイストなので、そういう観点でこの本を見ることはしにくい。少し残念かな。