小林泰三『AΩ 超空想科学怪奇譚』

これはもう素ん晴らしく面白いのでこの作家のファンは絶対に読み逃してはいけないよ。あらすじはこうだ。主人公諸星隼人(この名前……)は敵対関係にある二つの種族の宇宙人の争いに巻き込まれ、命を失うが、片方の宇宙人が隼人の体をのっとって復活させた。その宇宙人は敵を発見すると隼人の体を巨大化させ戦闘形態にして、「ヘアッ」だの「ジュワッ」だの叫びながらぶっ倒す!こうして隼人とその宇宙人“ガ”の戦いは始まったのだ……。
えー、もうおわかりでしょうが某特撮シリーズのパロディです。某特撮キャラの行動や能力にハードSFっぽい理屈付けをしてみるという試み、というのはたぶん建前に過ぎなくて、理屈付けがやたら力入ってる部分と一切なされてない部分との差が激しく、このへんに作者の邪悪なテキトーさが窺えて楽しい。勿論、例によって何とも言えず気持ち悪ーい違和感漂う会話文や戦闘シーンでここぞとばかりに連発される汁気の多いグロ描写など、ファンが小林泰三に求める要素は全て入ってて満腹になれることうけ合い。一応、「滑稽さが感動に転化する泣けるパロディ」として読むことも可能だし。そういう読み方をしようと思えばだが。
一つ残念なのはこの作品、詰め込まれているネタの数が膨大すぎてとても全部把握できないってこと。ラスト数ページ前で明かされる“ガ”の本名にしたってどっひゃー!ではあるもののその名前である意味がよくわからなくって口惜しい。最後の一文に何か特別な意味があるのかどうかもわからないし……。いまいち消化不良なのだった。ああ、しかし諸星隼人君32才童話作家の卵(ダメ人間)は萌えキャラだなあ、とんでもなく。