ジョナサン・キャロル『死者の書』

得体の知れなさについてはかなりのものがある作品だけど、あまり僕の好みではないような。作中の世界がどんな「仕組み」で動いているのかということについては読んでる途中で大体の見当がつくものの、最後まで読むと(またはそのずっと前から)その見当が「世界」の真実にはほとんど近づけていないことに気付かされてしまうあたり、すごいなあとは思う。でも、こういう全てを描かないことによって背後にある広大なものを垣間見させるような手法って、波長が合わない場合はやたらともったいぶってるだけに感じられてしまうことがあるからなあ。この作品の場合はそこまでじゃないけど。でもいまいちピンと来なかったのは確か。
前半で描かれる平和な情景と後半の真実が暴露された後の雰囲気の落差、不可思議な事象の持つ奇妙な静かさ、突拍子がないのに何故か説得させられてしまう展開などは噂にたがわず素晴らしいと思う。作中の世界を支配する「力」が僕にはあまり説得力を感じさせなかったのがつくづく残念だと言っておこうかな。