折原一『模倣密室 黒星警部と七つの密室』

ひさびさの黒星警部警部シリーズ短編集。ひさびさと言うかデビュー作『七つの棺』以来か。僕は折原一と言えばこの黒星警部ものが好きなのだけど、この本も『七つの棺』程ではないものの期待通りの面白さだった。古今東西の有名ミステリーのパロディという趣向は僕にはあんまり重要じゃなくて、素晴らしいのは何より個々のトリックの馬鹿馬鹿しさ、珍奇さ。いや、本当に素晴らしい。バカミス的なことって意図的にやって面白くなるのは稀なのに、折原氏は難なく(たぶん天性のセンスで)やってのけるんだもんなあ。色々出尽くしちゃった現代において本当にファンタスティックだと読者が感じるようなミステリーのトリックがあるとしたら、それはバカトリックなのじゃないかと、この本を読んでちょっと思ってしまった。
集中の個人的ベストはなんと言っても「北斗星の密室」。この“死体バラバラ切断の意味”はまさにファンタスティック!珍奇すぎてある意味詩的な域に達してしまっているというバカミスの王道を行くパターン。犯行の絵面を想像してもにんまりしてしまうなあ。大好き。逆にダメなのは「トロイの密室」な。『黄色館の秘密』並みの手抜きが感じられる。シリーズとしては虹子と竹内の二人を黒星警部抜きで行動させたのも良くない。虹子はあくまで黒星警部とのみいい感じになるべきだろう。
本格ミステリにロマンを持っている人が読むととても面白く感じられる本だと思う。かなりひねくれた形のロマン供給だけど。