森見登美彦『太陽の塔』

話題の一冊ですな。いろんなとこで絶賛されてるので僕が褒めることもないかなあと思いつつ。と言うか、実際それほど楽しめなかった。こういう、多大に理論武装、もしくは言い訳付けされた彼女持ちへの強い僻みを含む語りってわりと苦手なもんで。いや、この本のそれが他の凡百のものとは一線を画する(安易に主人公等を自嘲に走らせないなどの点で)ものであり、かつ小説を構成する要素として実に上手に利用されているってことはわかるつもりなのだけど、それでもちょっとなあ、なのでした。この本の売り物であるらしいユーモアも主にその語り口に含まれてるものなので僕にはちこっと受け入れ難かったよ。
それでも最後まで読むとなんだかとっても感じ入るものがあった。ラスト数ページは突如として静謐な雰囲気を醸し出してて物凄く綺麗。そこだけ何度も読み返してしまった。なんだろうねえ、この本はきっと人間達の矮小な営みを空の上から見下ろしてる神様みたいな気持ちで読むといいんじゃないだろうか。こいつら可愛いなあ、可哀相だなあ、ってな感じで。僕もラストですこーしだけそういう気持ちになった。あ、あとファンタジーノベル対象受賞作のくせにわかりやすい意味でのファンタジー要素はほとんどないこの本の唯一のファンタジー要素、あの電車の小道具としての扱い方はとてもいいと思う。結局これってモテない男の強がりっていうよりも失恋の話だったわけで、つまり「水尾さん is the world」なわけで……そんな感じがうまく出たと思うのです。あの電車(とその到着点)によって。泣けるなあ。趣味じゃないけど。