鳥飼否宇『中空』

鳥飼否宇のデビュー作で横溝正史賞優秀賞受賞作。横溝賞だけあって横溝パロディっぽい路線のいわゆる異世界本格ですねこれは。異世界本格としての雰囲気作りはそれなりにうまくいっているんじゃないだろうか。たぶん村の因習の恐ろしさみたいなことより滑稽さのほうを出したいのだろうからこれで正解でしょう。でも心理描写のし方はこの頃から大きく間違ってたのだなあ。この作者って強調したい心の中でのセリフはとりあえず繰り返しとけばいいと思ってるに違いないよ全く。
まあでも全体としては僕はわりと気に入ったぞ、この本。こういう素朴な本格ミステリを久しぶりに読んだからかも知らんが、メインの読者の錯誤を導くトリックが好きだなあ。悪い意味で古典的であるとも言えるのだけど、オーソドックスかつ稚気を感じさせる処理の仕方に好感が持てる。こういうのはまだまだ書かれるべきだと思った。村の秘密に関するネタは強引かつストレートすぎてどうかと思うし、真相解明部分をもうちょっと盛り上げてほしいと思わないでもないのだけど、やはり僕はこの人の作風を微笑ましく感じてしまう感性の持ち主らしい。いやはや。