鯨統一郎『月に吠えろ! 萩原朔太郎の事件簿』

うわあ、この本妙に装丁が渋いよ。なんか勘違いして買っちゃう人がいそうだよ。鯨なのに……。
と言うわけで鯨、鯨の新刊です。全くもって相変わらずー。唯我独尊タイプの名探偵とその探偵役に必要以上に突っかかるワトソン役というパターンのコンビも相変わらずなら時代風俗的要素の盛り込み方の強引さも相変わらず。なによりミステリネタの脱力さ加減が相変わらず!今回のメインのネタ、萩原朔太郎のあの名詩の数々は実は探偵としての経験からインスピレーションを得たものだったのだ!という趣向も例によって微妙だし。僕あの「地面の底の病気の顔」っていう詩好きなもんでああいう扱いをされるとちょっと……。
しかしこの鯨という人は不思議な作家で、我々(誰だ)は鯨に“面白いミステリ”を期待しているわけでもないし、詩美性なんかを求めてるわけでももちろんないし、キャラ萌え要素なんか間違っても期待していないし、じゃあ何を期待しているのかって言えばそれは鯨がただ鯨であることを求めていると言えるのではないだろーか。この受け入れられ方、存在の仕方はまさにアイドルのそれと共通するものである。つまりは鯨ってアイドル作家だったのだねー。
ちなみにこの連作短編集の最後の話ではシャーロックホームズが登場するというサービスもあったり。全くサービスになっていないことはご想像の通りだけども。