辻村深月『凍りのくじら』

イマイチ。前作『子どもたちは夜と遊ぶ』のほうが好き。トリックの仕掛け方がミエミエな上に効果的でないし、何より問題なのは、主人公の勘違いっぷりに比して終盤の反省の度合いが十分でないので、ハッピーエンドが不当なものに感じられること。要するに、「ああよかったね」と思うより先に「この女、すごく恵まれてるんじゃん。何を今まで不幸ぶってたんだ」と腹が立ってしまうのです。同様の問題を抱えていながらラストシーンの美しさで強引に乗り切った前作はその点巧かった。
という風にイマイチだったので以下は小ネタに注目。まず驚いたことに、架空の出版社として“綺譚社”が出て来ました。この女……どこまで新本格の亡霊にとり憑かれてるんだ……。あと、主人公の元彼の雰囲気を「ギャスパー・ウリエルのよう」と表現していたのには参った。ギャー、やめて! 自分のことのように恥ずかしいよ!