佐藤亜紀『バルタザールの遍歴』

一つの肉体に共棲する双子のウィーン貴族・メルヒオールとバルタザールは、家の没落、義母との関係の乱れ、従姉妹との行き違いなど様々な問題を起こし、ウィーンを離れ、住み処を次々に移ってゆくが……というお話。
端正な文体に意外にしっかりと張ってある伏線などなど、技巧的にはかなりのレベルのものだというのは衆目の一致するところでしょうな。それでも貴族の退廃的な生活を描いた話なんかには興味が持てなくてあまり乗れずに読んでいたのだけど、終盤に至って唐突にファンタジー的設定に加速度がつき、かつ、そこまでの物語の意味をひっくり返しかねない事実が実に投げやりに語られるあたりなかなか得体が知れなくて面白かった。クライマックスが普通にハラハラドキドキできるエンターテインメント性の高いものであったのも嬉しい喜び。
ちなみに、好きなキャラクターはシュトルツかエックハルトあたりですかね。