浅暮三文『夜聖の少年』

メフィスト賞受賞作家作品の中ではわりとレア物な、少年の成長物語SF。抑制遺伝子によって人々が管理された社会の中、そのシステムを拒んだ少年達は地下に住み土竜と呼ばれ、炎人による排除に怯えながら暮らしていた。ある日、土竜の一員であるカオルは不思議な巨人と出会い……というお話。『ダブ(エ)ストン街道』であんなに突拍子もない世界設定をなんとなく納得させてしまった作者の作としては、意外なほど設定や状況の説明が下手な印象。いかにも“説明”している風になってしまっていて、感覚的に伝わるものがあまりないのだ。これは、そもそものSF的設定が古臭いせいもあるかな。
改行がやたらと多く、かつそのペースが規則的すぎるぎこちない文体とも相まって、そんな風にあまり感心できないまま読み進めていったのだけど、ラストに至ると……あれ?変だな、「そんな大層な話にしちゃうのか、無理があるな」と思いつつもなんだか……“感動的”な感じがするんですけど。意外だ。こんなに上手くないのに。青臭さや稚拙さを感動に結び付けられているという点でちょっとすごい小説かもしれない。
それでもやはり上手くない小説だということで不満はある。中でもマリアがいつの間にカオルに惚れたのかよくわからないのは痛いなあ。そのへんの心理の動きはきちんと描写して欲しかった。グリスマンの扱いもあんなんでいいのか。炎人がいつもですます調で喋るってのはなかなかの萌え設定だったけども。