小路幸也『高く遠く空へ歌ううた』

第29回メフィスト賞受賞者の二作目。一作目は面白くなりそうな要素がありつつも最終的にはかなりどうでもいい話になってしまったという印象で、なんかもうほとんど内容覚えてなかったりするのだけど、この二作目は意外なことに結構面白かった。前作の時には全然思わなかったことだけどまず文体が魅力的。言葉を尽くすほどに言葉足らずになるような、穏やかでありつつもちょっとヘンな詩情を含む文体とでも言おうか。この一人称語りはなかなかに読ませる。
さらに前作では邪魔にしか感じられなかったミステリ的(あくまで“的”レベルのもの)要素が、今度はなかなか有効に機能しているのも良いところ。感情を表に出せない(この設定も意外にウザくなく、上手に使われている)主人公の少年が友情を育みながら一つの事件を通し成長する、というメイン・ストーリーが何だかんだできちんと優先されていてしっかりと伝わるので、脇のゴチャゴチャも活きてるんだな。いやいや悪くないじゃないか。全体的にウェルメイドな方向に針を振りすぎな気もするけど、マジック・リアリズムっぽい舞台の町の描写もこなれてきてるし、このくらいの出来なら以後の作品も読もうかなという気になった。とりあえずメフィ者は読んどくといいよ。