乾くるみ『イニシエーション・ラブ』(背景色でのネタバレ含)

……えっ?……………あ、あっ、ああー、わかった。そっかそっかそういうことか。気付くのにだいぶ時間がかかってしまった。つまりマユにとってもイニシエーション・ラブだったってことですね。彼女は二人の“たっくん”に対して二股を掛けていた、と。
でもこの趣向って面白いかなあ。帯によると「今年最大の問題作かもしれません。ぜひ、2度読まれることをお勧めします」だそうだけど、全然読み返す気が起こらないよ。話自体は80年代の若者どもがアヘアヘイチャイチャしてる様子を描いた微妙な不快感を含むもので、あまり魅力が無いのだもの。勿論、そのへんも意図的にやってるんだろうし(セックスシーンの萎え萎え感には特に悪意を感じて愉快)、先の展開に興味を持たせないにしても圧倒的に読みやすくはあるので普通に読む分には別に問題ない。でもなあ、「再読させる力」には欠けていると思う。仕掛けられたトリックと(一応の)作品テーマの結びつきの見せ方が巧くないと言うか、「だから何?」で終わってしまいそうな感じ。こりゃ再読云々以前に作品として読者に訴えかける力が弱いんじゃないかという気がするな。
と言うわけで、少なくとも本格ミステリとしては評価しにくいと思う。僕はもっとこの作家らしい“普通”からの微妙なずれ方を楽しめるのが読みたかったよ。章題まで昔のヒット曲のタイトルになってたりして80年代ネタには豊富なので、ノスタルジーを感じたい人にはお勧めできるかも。ただし作者はその年代に対して悪意たっぷりな気がするのでご注意を。