松尾清貴『簡単な生活』

騙された!ミステリじゃなかった!いや勿論ミステリだと勘違いした僕が悪いのですが、ミステリ置き場においてあったものだから……。まあミステリじゃないにしろ面白かったならこんな益体も無いこと言わないわけで、つまりはあまり面白くなかったんですけど。「超新星登場」(帯より)らしいけど、どうかなあ。話としては、主義主張なんてものよりも大切にすべきものがあるだろうと思いつつも、そういう力の前になすすべもなく負かされていく下町の僕等、みたいな感じ。むーん、古い!今更こんなの読みたくないよ。大正時代っぽい風俗描写やセリフ遣いはいいけど。所々にある詩的・象徴的なモチーフの扱いにしても中途半端で、租借不完全なまま出てる感じ。「僕が幽霊なのだ」ってなんじゃそりゃ。帯に書いてある通り関東大震災を「体験」させるってことが狙いならそこそこ成功してるような気もするけど、でもこの消化不良な終わり方はなあ。
と、ここまでが表題作の話。もう一編「あやかしの小瓶」という短編が収録されていて、こっちのほうがまだ面白かった。終盤突然生臭い話になってしまう所は無常感を感じさせて良いし、少年時代を描く箇所の雰囲気の甘酸っぱさも良い。しかしここでも空回りしてる気が。「クラウス曲線理論」のネタとか、もうちょっと上手く取り込めなかったのかなあ。どうにも。次回作はたぶん読みません。