ジョン・アップダイク『走れウサギ』

いやーこれは恐ろしい本では?と疑問系にしてみる。ジャンルとしてはダメ人間文学で、最初は『ライ麦畑』みたいな話かと思って読んでたのだけど……なんだか……。
まず、文体が一見普通っぽくも非常に特徴的。基本的に現在形の文のみによって書かれていて、それによって生み出されるのはスピード感というよりも何故か酩酊感。しかも予告なく回想シーンに突入するのでしょっちゅう現在のことを書いてるのか過去のことなのかわからなくなる。慣れるまで非常に読み辛い。
で、内容はと言えば、一人のダメ男のために周りの人間(特に女性)が全員不幸になる話、に思えた。恐ろしいのはこのダメ男の描写の仕方で、この人が要は「大きな子供」であるところなんかはダメ人間文学の王道なんだけど、違うのはこの男が全く感情移入も同情もできないように書かれているところ。この人最初っから最後までずーっと同じダメさで何が起きても全く変わらない上に、自分の素敵な世界に現実逃避してるわけでもない(つまりその思考にハッピーがない)という人で、終盤に至ってはなんだか怪物のように思えてきちゃったりする。こわー。これ、ホラーですか?と言うか、一番怖いのはこの小説に続編があるってことだな。さらに不幸になる妻や愛人を思うと……たまらん。