池上永一『風車祭』

おもしろい!でも、ながーい!いや、別に長いことはマイナスではないけど、この本の場合、時間あるときに一気に読むようにしないと若干面白さが薄れるのではないかと思う。僕自身も途中で浦賀だのドクロちゃんだのテディ文庫だの読みながら読んだので入り込むのに少し時間がかかった気がして。一旦この小説の舞台となっている沖縄の島の空気の心地よさを感じるようになれば、後は一気に読める、と言うか読まずにはいられないんだけどねえ。
この小説って胸がときめく(なんて表現だ)青春小説でありながら青春小説にふさわしくないキャラクターの印象が強烈で、例えば長生きすることに並々ならぬ執着を持っている破天荒なオバァ・フジとか、六本足で洗濯が趣味の豚の妖怪・ギーギーとかの猛烈なキャラクターに引っ張られてどんどんストーリーはユーモラスに進んでいく。島に大変な危機が訪れているという状況にも関わらず全く緊迫感が感じられないのはそんな連中ばっかりのせい。ああもう、みんな好き勝手やりすぎ!
でもやっぱり青春小説。前述のギーギーにしても、川の水を掻き回して泡を立てるという能力と足跡がハートマークって設定が「泣き」な方向に作用したりもするんだったり。キャラ設定巧いなあ。ギーギーのあのシーンはこの小説の一番の泣き所だと思う。そして最後にはお約束、主人公と主人公の想い人であるマブイ(魂)だけの存在の若い女・ピシャーマの仲にああいう展開が訪れると。
ラスト、ピシャーマとギーギーのいた一年は終ってしまったけど、でも彼女達はいなくなったわけじゃない、という感じの締め方が爽やかで、「島」の優しさというか、そんなものを感じて読み終えた。うーん、いいなあ。