スティーヴン・ミルハウザー『三つの小さな王国』

三編からなる中編集。ちょっと嫌になるくらい幻想味がたっぷり。例えば、「展覧会のカタログ――エドマンド・ムーラッシュ(一八一〇‐四六)の芸術」は展覧会のカタログという形式をとって語られるある画家の半生の物語で、画家、画家の妹、友人とその妹の四人が愛し合ったり感情が行き違ったりの経緯と微妙にリンクして述べられる、画家の絵についての描写が実に幻想的で、その奥にある儚さがこっちの心に染み入ってくるような読み心地。ラスト一行がまた鮮烈だなあ。
「J・フランクリン・ペインの小さな王国」はたぶん作者としてはハッピーエンドとして書いたのだと思うのだけど、どうしてもハッピーエンドに思えず、なにやら非常に後味が悪かった。主人公が作るアニメや漫画についての描写もいまいち精細を欠いている印象。
で、一番好きなのが「王妃、小人、土牢」。どこかの国で語り継がれる物語の中では、王妃は塔で待ち続け、王は苦悩し、小人は地下階段を下りたり上ったりし、囚人は岩を掘り続ける。おとぎ話は終らないし、かつ、ずっと昔に終ってしまっているし、かつ、今まさに終ろうとしている。そういう話。語り手がそのことに思いを馳せて見渡す風景の綺麗さが、心に残る。