神林長平『言壺』

わあ、素敵。言葉とワーカム(言語機能を肩代わりする機械)を巡る、同じ世界観下のいろいろなお話を綺麗に並べてある本。不穏だったりSF的不安感を催させたり感傷的だったり夢見がちだったりして、最終的に最後の一編「碑文」まで読むと切なさ混じりの虚しさが残る。連作短編としての、短編が寄り集まることで何か広大なものを感じさせるという効果はかなりのものだと思う。何だよ、神林長平、面白いじゃないか。前に読んだ『小指の先の天使』(→感想)はいまいちだったけども。
あくまで連作短編として評価すべき作品だと思うので一編一編を取り出して云々するのはそれほど具合のいいことではないだろうけども、敢えてやってみるとすれば、特に気に入ったのは「没文」「栽培文」あたり。「没文」は何かが死んでしまった世界を静かに描いているけども、そこにはまた別の夢の見方がある、という感じで微かにロマンチック。「栽培文」はとにかく素晴らしい。言葉を使うということの様々な側面が象徴的に語られているという外見の話だが、読んでるうちにそんな外見がどうでもよくなってしまうのが素晴らしい。ここで優しく讃えられている何かを、自分も大切にしたい、とまで思わせられた。好きだ。