神林長平『小指の先の天使』

この人の本を読むのは初めて。えー、装丁が素敵ですね。でも装丁から予想されるような中身ではなかった。SF短編集なのだけど、ネタがかぶりまくりって言うか、たぶん仮想現実ネタというコンセプトの元に纏められた短編集。完璧なはずの仮想世界でキリンがいきなり鳩を食べるという事件が!とか、あらすじだけ聞くとSFミステリっぽかったりする短編もあるんだけど、別に意外なオチがついたりはしない、基本は対話で話が成り立ってるハードSFかな。非SF者としてはちょっと読みにくく、そしてちょっと“いけず”な印象を持ってしまうのだった。
例えば1981年発表の「抱いて熱く」っていう短編は、人間同士が触れ合うと発火してしまう世界で恋人達は……っつー話で、導入部はなんともセンチメンタリズムを刺激するんだが、落とし所がこう、冷静って言うかいけずな感じなのだ。そのへんがSFってことなのかと考えてみるわけだけど。気に入ったのは「猫の棲む処」。おお、猫SF!幻想を解体しつつも夢見てる感じが良い。猫好きにはたまらんと思われます。