佐藤賢一『カルチェ・ラタン』

分厚い本なんで読むのにけっこうかかるかと思ってたら、あら、とっても読みやすい語り口。おかげですいすい読めました。僕に限らず、とってもまっとうなエンターテインメントなので多くの人が楽しく読めると思う。でも、雑誌掲載のときの形式に絡んで長編と言うよりは連作短編に近い感じなのもあって、なんだか途中まで「ドニ君とミシェル先生のお話を読みながら楽しく神学がわかる本」みたいなのを読んでるような気分だった。文学作品と言うよりは初心者向けキリスト教宗教改革の歴史入門書みたいな感じで。
でもそれに関しては一応ラストで解消されたように思わなくもない。ほとんど神に等しい存在であるように思われるミシェルであっても結局はある意味で「負けた」わけで。このへんはすいすいとは読めずに、ちょっと立ち止まってしまった。ひたすら読みやすい文体とかなり高レベルのリーダビリティで引っ張っておいて、最後の最後で考えさせられるオチをつけるってのはなかなか。巧いんじゃないかと。まあマルトさんの心の動きが非常に物語にとって都合の良いものになってるなあとは思ったけど、そのへんには目をつぶりたいと思える。
ところでこの小説はやおい的要素を見出そうと思った場合物凄く直球なのが含まれてるので、腐女子的感性を持った人達(自分含む)にとっては逆に物足りないと思う。それにしても、ドニは石岡君にしか見えない。